能登の地震から、季節が静かに移り変わるなかで、
輪島の職人たちの工房は今もなお、
再建のめどが立たない厳しい状況にあります。
失われた道具、戻らない材料、
そして何より“手を動かす場所”がないという現実。
それでも、職人たちは諦めず、
「また必ず作りたい」と、静かに前を向いています。
大内山香堂は、
その思いに応える小さな光を灯したいと考えました。
9月より、輪島の若い職人たちと共に、
“香木箱” の試作と制作を始めるプロジェクト
を立ち上げます。
これは商品を増やすためではなく、
「職人に未来の仕事をつなぐため」
「手を動かし続ける理由を渡すため」
の取り組みです。
工房が完全に戻るには、
まだ多くの時間が必要です。
だからこそ、
今この時期に「作る理由」を届けることが
もっとも大切だと感じました。
香木箱は、
香りが静かに佇むための小さな在処であり、
同時に、
職人の丁寧な手技と精神が宿る “器としての祈り” でもあります。
プロジェクトで生まれる収益は、
職人たちの再建支援に用いられます。
しかし、それ以上に価値があるのは、
「つくり続けたい」という意思を
折らずに守ることです。
たとえ工房がまだ立ち直れなくとも、
手の記憶は失われません。
香堂はその記憶が絶えないよう、
そっと寄り添い、灯りを絶やさず見守りたいと思っています。
この秋から始まる小さな歩みが、
輪島の職人たちにとって
新しい季節への一歩となりますように。