今年の《一年の香を封じる夜》は、
東京・椿山荘の離れにて、
灯りを落とした小さな和室で行います。
部屋の中央には香炉をひとつ。
その横に静かに置かれるのは、
一挺の箏。
演奏は曲ではなく、
焚かれる香に寄り添う即興です。
伽羅には低い一音、
沈香には細い残響、
練香には柔らかな揺らぎ。
香が変わるたびに音が変わり、
音がほどけるたびに香の層が揺れます。
行燈の明かりだけが
煙と弦の余韻を照らし、
言葉のない呼吸だけが部屋を満たします。
最後に、
音を止め、
香だけを残し、
その香も静かに消えるまで見届ける。
その消え方こそが、
一年の終わりの形となります。