秋の香りと、深く向き合う時間

空気が少しひんやりし、
浅草にも秋の気配がはっきりと感じられるようになりました。
夏のにぎわいとは違い、
人の動きもゆっくりで、
香りと向き合うにはちょうどいい静けさが広がっています。

この季節になると、
伽羅や沈香の香りが一段と深く感じられます。
湿度や温度が変わるだけで、
香りの立ち上がりや余韻は驚くほど表情を変えます。

ある日、ひとりのお客様が
「秋って、香りがすっと心に入ってくる気がしますね」
と穏やかに話してくださいました。

たしかに、秋は心が静かになり、
香りの細かな揺らぎや奥行きに、
自然と耳を澄ませたくなる季節です。

この日は、伽羅をゆっくり温めながら、
立ち上がりの淡い甘さ、
深く沈んでいくような余韻を
お客様と静かに味わいました。

香りが変化するたび、
呼吸がふっと深くなり、
そこに漂う静けさが
心の奥まで届いていくようでした。

浅草の街はまだ完全には活気を取り戻していませんが、
この“静けさ”が、むしろ香りと丁寧に向き合う時間を
そっと運んできてくれているようにも思います。

秋の風とともに、
香りの奥行きを感じられる季節がまた巡ってきました。

冬に向かうこれからの時間も、
香りとともに静かに寄り添っていけたらと思っています。

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