香りの手紙——小さな贈り物のこと

コロナで人との距離が急に広がった年。
浅草の店にも、
「最近誰にも会っていなくて…」
そんな声をよく聞くようになりました。

その頃、
常連のお客様のお一人から
こんな相談を受けました。

「遠くに住む母がずっと外出できず、
元気がないみたいで…。
何か小さな贈り物を送りたいんです。」

大げさなものではなく、
“気持ちがふっと軽くなるもの”。
何がいいだろうと一緒に考えました。

そこで、私は思い出しました。
店で普段使っている
白檀の「香り付きメッセージカード」。

名刺ほどの小さな和紙に、
白檀の香りをそっと含ませた
とても静かな贈り物です。

「これなら、
開けたときにふわっと香って、
心が少しあたたかくなると思います。」

そうお伝えすると、
お客様は丁寧にカードを選び、
短い言葉を添えて送られました。

数日後——
そのお客様から一通のメールが届きました。

「母がね、
“久しぶりに良い香りに包まれたわ” と
嬉しそうに話してくれました。
少し元気になったみたいです。」

香りは目に見えないけれど、
誰かの心にそっと寄り添う力を
あらためて感じた出来事でした。

あのときの“香りの手紙”は、
私にとっても忘れられない記憶です。

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